ここでは、自身の復習の意味を込めて、脳卒中関連でおさえるべきポイントを簡潔にまとめています。項目は順不同。詳細は引用論文、成書にてご確認ください。
たこつぼ心筋症
特徴
①高齢女性に好発
②急性心筋梗塞に類似した臨床所見
③心臓超音波検査・左心室造影で左室心尖部の無収縮と心基部の過収縮を示すが
④冠動脈に有意な狭窄病変は認めない
⑤多くは予後良好で左心室壁運動障害・心機能は数日から数週間でほぼ正常化する
・H&K grade 4 以上の重症例に併発することが多い
・発症時の身体的ストレスが内因性カテコラミンを過剰分泌
⇒冠攣縮や心筋障害が起こる
doi: 10.3995/jstroke.10476
脳卒中J-STAGE早期公開2016年11月22日
TIA
Transit ischemic attack一過性脳虚血発作
ABCD2スコア
TIA発症後早期の再発リスクを層別化
A:age | 60歳以上(1点) |
B:blood pressure | 140/90mmHg以上 (1点) |
C:clinical features | 片麻痺(2点)運動麻痺のない言語障害(1点) |
D:duration of symptoms | 10-59分(1点) 60分以上(2点) |
D:diabetes | 糖尿病(1点) |
合計5項目、最高7点
48時間以内に脳梗塞を発症するリスク
0~3点で1.0%
4~5点で4.1%
6~7点で8.1%
注意!単独でTIAといえない症状
めまい、嚥下障害、構音障害、複視
脳卒中ガイドライン2021のTIA定義
今までは、MRI-DWI陽性でも症状が24時間以内に症状が消えればTIAであったが、
現在の定義(脳卒中ガイドライン2021に記載あり)は、
症状が消失していても、MRI-DWI陽性なら脳梗塞、つまりTIAの診断にMRIは必須となり、単独ではTIAとみなされない。
血管壁イメージング
VWI: vessel wall imaging
造影MRI T1強調画像において血管壁を可視化する手法。
動脈瘤壁の造影効果が、破裂リスクを伴う脳動脈瘤の特徴。
瘤壁造影効果の機序
・破裂前に存在した瘤壁の炎症
・破裂点近傍の止血血栓
・内皮損傷・血液脳関門破綻に伴う造影剤漏出
瘤壁造影効果
・破裂動脈瘤
⇒多発脳動脈瘤の出血源検索に有用
・瘤壁造影効果を認めない場合は未破裂瘤である可能性がきわめて高い
World Neurosurg 117:453-458 e1, 2018
・未破裂脳動脈瘤で瘤壁造影効果を認めた場合は、症候性瘤、増大瘤など不安定動脈瘤である可能性がある、PHASESスコアが高い、大きい動脈瘤と関係がある
・Low all shear stressが造影効果と関連がある
_pdf (jst.go.jp)
脳外誌31巻2号2022年2月
Stroke 52:213-222, 2021
Stroke 51:1868-1872, 2020
肺癌術後の脳梗塞
・肺癌術後に発症する脳梗塞は約0.3%
・左肺上葉切除後に有意に多い
・原因は肺静脈断端部に形成された血栓
・診断は胸部造影CT検査が有用
・確実な予防法はなく、治療は急性期脳梗塞の治療に準ずる
日呼外会誌 34 巻 2 号(2020 年)
Surgery today 46(7);780-4, 2016
脳循環代謝
脳は体重の約2%の臓器だが、
全脳の血液量は50ml/分/100g
脳血流は心拍出量の20%(700-800ml/分)
酸素消費量は全酸素消費量の約20%を消費
ブドウ糖消費量は全身の約25%
神経細胞体の活動よりもシナプス活動の方がブドウ糖消費が多い
脳酸素摂取量0.4
脳血流量autoregulation 150/60mmHg(上限/下限)
高血圧では上がる
灰白質の血液量:70-100ml/100g/分
白質の血液量:20-25ml/100g/分
遅発性神経細胞死
遅発性神経細胞死 (delayed neuronal death) とは、ごく短時間の脳虚血の後に海馬 CA1 錘体細胞に発生する神経細胞の死である。
脳は虚血に対して極めて脆弱であるが、特に海馬CA1細胞は最も脆弱で、ごく短時間の脳虚血によって3-4日後に死に至る。
虚血再灌流早期にグルタミン酸がシナプス間隙に過剰分泌され、受容体の過興奮に伴い細胞内カルシウム濃度の異常上昇をきたし、再灌流後晩発性に細胞死に至る。
日内会誌 83:828-833, 1994
CADASIL
Cerebral Autosomal Dominant Arteriopathy with Subcortical Infarcts and Leukoencephalopathy
・常染色体優性遺伝の脳血管障害
・Notch3 の単一遺伝子異常
(Notch3は動脈の分化に関与する蛋白質で血管平滑筋の形質膜に局在)
・片頭痛、脳梗塞、認知症、精神症状をきたす
・典型例:
- 10~30 代で片頭痛発作
- 40~50 代で脳梗塞を繰り返す
(risk factorを欠く) - 60代で血管性認知症にいたる
- 家族に類似症状をみる
経過中に気分障害などの精神症状を合併
・画像:MRI T2,FLAIRで外包や両側側頭極に白質病変を認める。(多発性脳梗塞・微小出血も)
・確定診断:Notch3 遺伝子変異の同定、電子顕微鏡による GOM(Granular Osmiophilic Material) の同定。
▼病理参照:Fig.2にGOMの図
臨床神経学52巻11号(2011年)
臨床神経学54巻12号(2014年)
延髄外側症候群(Wallenberg症候群)
lateral medullary infarction (LMI)
延髄外側梗塞(脳梗塞の2%程度)
原因:アテローム血栓性、動脈解離など
責任血管:椎骨動脈VA(75%)、後下小脳動脈PICA(15%)
VA: vertebral artery
PICA: posterior inferior cerebellar artery
特徴的症状:
回転性めまい
嘔気・嘔吐
嚥下障害
同側小脳失調
ホルネル症候群
同側顔面と対側四肢体幹の温痛覚障害
延髄内側症候群(Dejerine症候群)
medial medullary infarction (MMI)
延髄内側梗塞(脳梗塞の0.5%程度)
原因:アテローム血栓性、動脈解離など
責任血管:椎骨動脈VA穿通枝、前脊髄動脈ASA
VA: vertebral artery
ASA: anterior spinal artery
血管のバリエーションが多いため延髄内側のどの部位が障害されたかにより、多彩な症状を呈しうる。
特徴的症状:
- 同側舌の麻痺と萎縮(舌下神経麻痺)
- 対側の運動麻痺(顔面を除く)
- 対側の深部知覚障害
3徴が揃うのは20-40%程度
Horner徴候は延髄内側梗塞の16%
DSA (digital subtraction angiography) -MR fusion画像で診断できた症例報告:
060060434.pdf (neurology-jp.org)
臨床神経 60:434-440, 2020
<延髄外側症候群(LMI)と延髄内側症候群(MMI)の比較>
日本からの報告、214症例の検討
・MMIの方が発症年齢は高齢
・どちらも原因として動脈解離が重要(約20%)
・糖尿病はMMIに関連
・予後はどちらも良好
Stroke 35:694-699, 2004
両側延髄内側症候群
延髄内側梗塞の2-14%と稀
原因:アテローム血栓性、動脈解離など
責任血管:椎骨動脈VA、脳底動脈BA、前脊髄動脈ASA
VA: vertebral artery
BA: basilar artery
ASA: anterior spinal artery
血管のバリエーションが多いため延髄内側のどの部位が障害されたかにより、多彩な症状を呈しうる。
症状:運動麻痺78%(四肢麻痺が多い)、構音障害、眼振、舌下神経麻痺、呼吸不全、嚥下障害、顔面神経麻痺、注視麻痺など。
予後不良。死因は肺炎が多い。
J Stroke Cerebrovasc Dis 22:775-780, 2013
診断:DWI-MRI 両側延髄内側梗塞heart appearance sign
Postgrad Med J 87;156-7, 2011
治療や予後などのまとめ
⇒臨床神経学55巻10号, 2015
055100748.pdf (neurology-jp.org)
Mesencephalic artery syndrome
BAtopやPCA(P1)から分岐するparamedian arteryの閉塞による両側視床・中脳梗塞
Akinetic mutism:
眼球運動障害
(瞳孔不同、動眼神経麻痺、垂直注視麻痺)
BA:basilar artery
PCA:posterior cerebral artery
Trousseau 症候群
病態:悪性腫瘍による血液凝固能亢進により脳梗塞を発症
原発癌:肺癌、胃癌、大腸癌、婦人科系悪性腫瘍、膵臓癌
腺癌、ムチン産生腫瘍が多い
機序:非細菌性血栓性心内膜炎NBTE(nonbacterial thrombotic endocarditis)による心原性脳塞栓症
診断:
D-dimer高値:Cut off値 2.68 µg/mL FEU
(Fibrinogen Equivalent Units)
CRP高値:Cut off値 0.29 mg/dL
J of Stroke Cerebrovasc Dis Vol29,No2, 2020
<ちょっと単位の復習>
1 D-dimer unit= 2FEU
2.68 µg/mL =2680µg/L=1340 DDUµg/L
Three territory sign
MRI-DWIで、両側前方循環領域、後方循環領域、全てに高信号病変を認める。
悪性腫瘍関連脳梗塞と心原性脳塞栓症のMRI-DWIの特徴を比較した論文
Three territory signが認められたら(陽性)Trousseau 症候群の可能性が心原性脳塞栓症より6倍高くなる。(診断の感度23%、特異度96%)
Neurol Clin Pract 9(2):124-128, 2019
治療:
ヘパリン
適応があればrt-PA(治療抵抗性)、機械的血栓回収術を行う
ダビガトランは効果なし
J Stroke Cerebrovasc Dis 23: 1724–1726, 2014
予後:末期癌で合併することが多く予後不良
脳卒中J-STAGE早期公開, 2018
臨床神経 60:846-851, 2020
脳梗塞と頭痛
脳梗塞の15%で頭痛を認め、特徴は初めて経験する片頭痛様頭痛、次いでいつもと異なる緊張性頭痛様。
頭痛を合併した脳梗塞の場合、心原性脳塞栓症、後方循環の脳梗塞、小脳梗塞の可能性がある。
Eur J Neurol 28:852-860, 2021