今回は、頸動脈狭窄症に関する事項。ポイントのみです、詳細は文献をご参照ください。
<略語>
頸動脈内膜剥離術
CEA:carotid artery endarterectomy
頸動脈ステント留置術
CAS:carotid artery stenting
治療のエビデンス
<脳卒中治療ガイドライン2021>
CEA
症候性内頸動脈高度狭窄に対して推奨度A
症候性内頸動脈中等度狭窄に対して推奨度B
無症候性内頸動脈高度狭窄に対して推奨度B
※いずれも抗血小板療法を含む最良の内科的治療に加えて
※高度狭窄:狭窄率70%以上
※中等度狭窄:狭窄率50%以上
内頸動脈狭窄症で血行再建術を考慮すべき高齢者に対しては、CASよりもCEAを行うことが妥当(推奨度B)
症候性頸動脈狭窄に対して症状発症後早期にCEAを行うことは妥当(推奨度B)
CAS
症候性内頸動脈高度狭窄でCEAの危険因子を持つ症例に対して推奨度B
症候性内頸動脈高度狭窄でCEAの危険因子を持たない症例に対して推奨度C
無症候性内頸動脈高度狭窄でCEAの標準・高リスク例で推奨度B
※いずれも抗血小板療法を含む最良の内科的治療に加えて
無症候性頸動脈狭窄
無症候性頸動脈狭窄は一次予防として動脈硬化リスクファクター管理が勧められる(推奨度A)
軽度から中等度の無症候性頸動脈狭窄に対しては、CEA、CASなどの血行再建術は行わないよう勧められる(推奨度E)
<CAS vs CEA>
SAPPHIRE
N Engl J Med 351: 1493-501, 2004
EVA-3S
N Engl J Med 355: 1660-71, 2006
SPACE
Lancet 368: 1239-47, 2006
ICSS
Lancet 375: 985-7, 2010
CREST
N Engl J Med 363: 11-23, 2010
ACT 1
N Engl J Med 374: 1011-20, 2016
SPACE-2
Int J Stroke 15: 1747493019833017, 2019
ACST-2
Lancet 398: 1065-73, 2021
各結果は、脳神経外科速報vol32 no.1, 2022.1に載っています
<CASはCEAに非劣勢を示したRCT>
SAPPHIRE(CEA高危険群)
CREST(CEA通常危険群)
ACT-1(無症候)
<EPD(embolic protection devices)義務>
ACT-1
CREST
SAPPIRE
<EVA3S、SPACE、ICSSのメタ解析>
周術期脳梗塞(CAS7.4%、CEA4.3%)、軽症脳梗塞CAS3.9%、CEA1.9%)はCASで有意に多かった
70歳以上では、30日以内の脳卒中・死亡は、CAS10.5%、CEA4.1%で有意に高かった
Lancet 376: 1062-73, 2010
<CEA危険因子>
(SAPPIREより)
・心臓疾患
・重篤な呼吸器疾患
・対側頚動脈閉塞
・対側喉頭神経麻痺
・頚部直達手術または頚部放射線治療の既往
・CEA再狭窄例
・80歳以上
<最近の論文>
SPACE-2
無症候、狭窄率70%以上
BMT(内科治療)、CAS+BMT、CEA+BMTの3群のtrial
30日脳卒中・死亡
CAS2.5%、CEA2.5%、BMT0%
BMT希望しない患者が多く試験中止、観察のみ
Int J Stroke 15: 1747493019833017, 2019
ACST-2
無症候、頸動脈エコーで60%狭窄
6ヵ月以内TIA除外
30日以内の死亡、心筋梗塞、脳卒中
CAS3.9%、CEA3.2%(有意差なし)
5年追跡mRS0-2
CAS3%、CEA2%有意
Lancet 398: 1065-73, 2021
無症候高度狭窄の内科的治療
無症候、狭窄率70%以上
後ろ向きコホート研究
CEA,CASを受けていない過去6ヵ月以内の脳卒中、一過性脳虚血発作がない成人3737例を平均4.1年追跡
インターベンション介入前の同側脳梗塞の平均年間発症率は0.9%
同側脳梗塞の発生率は、5年間で4.7%(過去の報告より低かった)
多変量解析では、年齢、超高度狭窄(狭窄率90%以上またはPSV≧350cm/s)が、同側脳梗塞に関連する因子
スタチンの使用は、脳梗塞リスク低下と関連
JAMA 327: 1974-82, 2022
その他ポイント
<CAS治療適応>
50%以上の症候性または80%以上の無症候性動脈硬化性病変で、かつCEAの危険因子を有する症例。
<CASをする際の心疾患リスク>
重度大動脈弁狭窄症
重度冠動脈疾患
<造影剤腎症>
contrast-induced nephropathy:CIN
定義:ヨード造影剤使用後72時間以内に血清クレアチニン値が前値より0.5 mg/dL以上、または25%以上上昇
リスク:推定糸球体濾過量(eGFR)が60 mL/ min/1.73 m2 未満のCKD
予防策:術前後の生理食塩水の輸液
腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン2018
<不安定プラーク>
超音波検査で低輝度、
MRI T1強調画像で高信号
⇒lipidrich orプラーク内出血
MRI T1強調画像で高信号、
TOF(Time of flight)で高信号
⇒プラーク内出血
P/M比1.5以上かつ狭窄長25 mm以上の病変
⇒有意に虚血性合併症が多い
(P/M:胸鎖乳突筋とプラークとの比)
脳神経外科速報 vol.30 no.1 2020.1.
<CAS後70%以上狭窄>
PSV≧300cm/s
EDV≧140cm/s
PSV(ICA)/CCA(PSV)≧3.8
Stroke 39: 1189-96, 2008
<CAS後過灌流症候群>
cerebral hyperperfusion syndrome:CHS
術後12時間以内
本邦頻度1%、出血0.7%
CHSのRisk:
術前の20%以下の予備能低下
高度狭窄
対側内頸動脈閉塞・狭窄
側副血行路未発達
高齢
長期間の高血圧既往
CHSの管理は降圧、場合により鎮静
予防のためstagedangioplasty(SAP):
経皮的血管形成術(percutaneoustransluminalangioplasty:PTA) を 行った後にCASを行う(過灌流発生率:SAP 群4.4%vsCAS群10.5%,p=0.047)
Neurosurgery 64: 122-9, 2009
<コレステロール塞栓症>
CCE:cholesterol crystal embolism
大血管の粥状硬化性プラークが破綻し、コレステロール結晶の塞栓による多発臓器虚血を生じる疾患
①皮膚症状(livedoreticularis)
②急性腎不全
③好酸球増多
確定診断は皮膚生検:
血管拡張
皮下の線維化
炎症細胞の浸潤
有効な治療は確立されていないが、コルチコステロイドなどの抗炎症薬、LDLアフェレーシスなどがある
<Carotid web(CW)>
局所的な線維筋異形成
内頸動脈の後壁に内膜線維組織が棚状に突起
無症候性
血流の乱流が生じるため
若年の脳梗塞の原因
再発を繰り返す
症候性CWに対する内科的治療システマティックレビューでは50%以上で再発した
Stroke 49: 2872– 2876, 2018
MR CLEAN trialとMR CLEAN Registryに登録された脳梗塞患者の頸動脈CTAを再評価。
CWは若年で女性が多かった。
症候性CW患者の93%が内科治療を受け、2年フォローアップで17%が再発した。(CWなしでは3%)
JAMA Neurol. 78(7):826-833, 2021
脳梗塞を発症した症候性CW患者の66%がステント留置した。
結果、周術期合併症を認めず、再発を認めなかった。
Stroke 48: 3134– 3137, 2017
CWを伴った急性期脳梗塞に対しCASを施行した一例
脳卒中 J-STAGE 早期公開2020.12.15
その他といたしましては、
ステントの種類(PRESICE, Carotid Wall, Protégé, CASPER RX)、材質、特性、手技、トラブルシューティングについておさえられるとよいでしょう。
例年のCEPテキスト、脳神経外科速報vol32 no.1, 2022.1が参考になります。