- 大学院での出産はいいタイミング?
- 大学院への進学を悩んでいる
- 臨床との兼ね合いはどう?
そんなお悩みを持つ女医さんへ。
私(脳外科医)は、大学院生のときに出産を経験しました。
今回は、女医さんが大学院で出産するメリット・デメリットについて、実体験をもとにお話します。大学院に進学した先輩医師の事例もご紹介します。
注意:本記事は、基礎研究の大学院に進学した場合の体験談です。
臨床を兼務する場合や、臨床研究の場合は、異なることが多々あるため、参考にとどめていただければと存じます。
メリット
- 興味分野を追究できる
- ベッドフリーになる
- 博士号取得を目指せる
- 英語力向上が期待できる
- 留学のチャンスがあるかも
興味分野を追究できる
大学院に進学する最大のメリットは、ご自身の興味分野を追究できることです。
例えば、私の場合、脳について遺伝子レベルで解析できるため、視野が広がります。
今までのマクロの世界とは全く異なる世界があり、ミクロの世界を知ることで、病気の発生機序や、ある特定の遺伝子の機能や、薬のメカニズムなど様々なことが見えてきます。
臨床をしていてギモンに思ったことや、分子レベルで知りたいことがあれば、突き詰めることができます。
様々なバックグラウンドを持つ研究者と触れ合って話をすると、新たな考え方に出会えたり、彼ら流の論文を読む時の癖のようなものが身についたり、論文を書く方法を学んだり、それまでの臨床の場と違った技術も身につきます。
スペシャルインタビュー|佐野 倫生 氏 浜松医科大学 整形外科 臨床教授
そういう意味では、基礎研究を4年間やるというのは全く回り道じゃなくて、むしろ医者として成長する近道にもなり得るのだと思います。少しでも興味があったらその道へも迷わず進んでほしいと思っています。
ベッドフリーになる
ベッドフリーだと、妊娠中は助かります。当直がないと、ある場合と比べて、肉体的にも精神的にも負担が軽くなります。
保育園から子どもの緊急お迎えを求められる頻度は高いです。出産後の育児においても、比較的休みをとりやすいです。
臨床医であれば、家族やファミリーサポートなど体制を整える必要があります。
▼当直がある場合
妊娠中の当直が辛い。いつまでできる?
▼有機溶剤を使用する場合
有機溶剤を取り扱っているが妊娠したら
博士号取得を目指せる
博士号の取得は、ご自身のキャリアにプラスになるでしょう。
博士号は絶対とらないといけないものではありませんが、あると将来に生かすことができるかもしれません。
大学院に進学せず、臨床をしながら論文を発表し、博士号を取得する方法もあります。(論文博士といいます)
英語力向上が期待できる
臨床医として、最新論文を読むことも大事ですが、臨床の仕事をしながら、論文を多読・精読することは、時間の都合上難しいことが多いです。
基礎研究は、研究の合間に論文を多読することが可能ですし、必要な作業です。
指導医から論文指導をしていただけるのも、大学院生の特権。英語力向上が期待でき、論文を書くことは、今後、臨床の場面でも役立つでしょう。
留学のチャンスがあるかも
所属する研究室によりますが、交換留学生を受け入れたり、海外の学会に参加したり、国際的に活躍している研究室であれば、留学のチャンスもあるかもしれません。
デメリット
- 収入がない
- 臨床のブランクができる
- 小動物が苦手だと苦痛かも
- 専門医更新に注意が必要
- 保活が不利になるかも
収入がない
臨床を兼務しない場合、基本的に収入がありません。(兼務しても無給のことも)
また、学生期間中は育休手当(育児休業給付金)が出ません(涙)
>>育休手当を受け取る条件(外部リンク)
ですので、アルバイトをしながら、大学院生として研究生活を送る場合がほとんど。
医局からのアルバイト派遣や、転職サイト求人のスポットアルバイトなどです。
\スポットアルバイト検索/
民間医局(利用しやすい!)
医師転職ドットコム(多数)
マイナビDOCTOR(多数)
臨床のブランクができる
これは、最大のデメリットです。
臨床研究の場合は、ブランクを最小限に抑えられますが、基礎研究は、臨床とは内容が異なるため、どうしてもブランクが大きく…。
ブランクを最小限にするため、
・臨床医を兼務する
・アルバイトをする
・時々臨床の見学をさせてもらう
などがあり、相談・交渉が必要です。
小動物が苦手だと苦痛かも
基礎研究を行う場合、マウスやラットなど小動物を扱うことがほとんど。ですので、もともと小動物が苦手な場合は、苦痛と感じるかもしれません。
医学生2、3年のとき、基礎研究の一部を経験されたことがあると思います。思い出して、小動物の扱いに、特にイヤな思い出がなければ、大丈夫だと思います。
ウイルス・細胞のみを扱う場合はこの限りではありません。研究室をご確認ください。
専門医更新に注意が必要
すでに専門医をお持ちの場合、更新に注意が必要です。
専門医になると5年毎に、症例の登録や学会参加などの規定を満たさねばなりません。
基礎研究の大学院に進む場合、専門医を保留する必要があるか、各学会ホームページをご確認ください。
保活が不利になるかも
仕事を兼務する場合は問題ありませんが、大学院生の場合、保育事由は「就学」になるため、注意が必要です。
保活では、保育事由による優先順位があり、「就労」が上回ります。そのため、保活が不利になることも。
希望保育園は全て記入し、備考欄があれば「研究に従事し、時間外就学することもある」など、明記しましょう。
実際の感想
私自身は、臨床の仕事は好きですが、妊娠中も出産後も、大学院生であることに、ずいぶん助けられました。
臨床とは違う世界でしたが、好きな脳の分野を研究でき、ご指導いただいていることに感謝しています。育児との両立もしやすく、後悔はしていません。
ただ、臨床を続けたい、臨床のブランクを最小限にしたい場合はオススメしません。
なぜなら、基礎研究をすることで、臨床のブランクが大きくなってしまうから。
大学院進学が、ご自身の考えるキャリアにプラスになるか、妥協できるかが、進学するかどうかのポイント。
先輩の事例
基礎研究をして、興味がわいてきて、そのまま基礎研究医になった先輩女医さんがお二人います。
事例1)
もともと内科医。2児の母。大学院で基礎研究に従事。生活スタイルが自身に合っており、研究もおもしろいと感じたため、そのまま基礎研究医になった。毎日遅くまで、どっぷり研究。多数の論文を発表されている。
事例2)
もともと脳神経外科医。1児の母。大学院で基礎研究に従事。基礎研究が楽しく、大学も変更し、自分のしたいことを、とことん追究。現在基礎研究医、指導医レベル。
在籍中の出産について
大学院博士課程
大学院博士課程は4年で、大まかな流れは、
1年:基礎技術の習得
2年:研究の開始
3年:研究の本格化
4年:研究のまとめ、
論文作成、討議会発表
となります。
どんな生活?帰宅は遅い?
基本的に、毎日研究室での実験、論文精読、カンファレンスなどを行います。
帰宅時間は、実験内容によります。実験によっては、定時に終了できず、土日に研究する必要があるかもしれません。
しかし、交渉次第。私は、出産後はご配慮いただき、定時に終わる実験内容で研究生活を送っています。
出産の適切な時期
出産は、産休・育休期間が休学扱いになり、研究が中断します。
そのため、出産をする場合、大学院生1年、2年が最も理想的。
しかし、妊娠はすぐできるとは限らず、タイミングが合わないことも十分考えられます。
>>女医の妊娠・出産のベストなタイミング
大学院生の3、4年で出産された方もいます。妊娠したら思い悩まず、上司と相談して、無理のない範囲で研究を進めましょう。
アドバイス
基礎研究は、臨床医にとっては未知の世界で、始めることは勇気がいります。また、やってみて合う・合わないがあるでしょう。
私は、育児との兼ね合いも考え、やってみようの精神で飛び込みました。合えば、続ける道もあるし、合わなくても学位取得し臨床に戻ればいい、という考え方で。
先ほど述べたように、メリットもたくさんあります。キャリアに対する自身の考えを整理し、選択肢のひとつとして、検討してみてもいいかもしれません。
・研究をしてみたい
・妊娠・育児との両立をかなえたい
・臨床にこだわりが強くない
・学位を取得したい
まとめ
女医が大学院で出産するメリット・デメリットについて、お話しました。
大学院に進学するか悩む、大学院在籍中での出産を考えている際に、ご参考いただければ幸いです。
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