外科医を目指すなら、早く外科スキルを身につけ、上達したいですよね。
でも、その方法を誰も教えてくれません。
今回は、外科系後期研修医向けに、効率よく外科スキルを身につける方法をお話します。
本記事の著者:
卒後10年以上の脳神経外科専門医
外科スキル向上法
<結論:何をすべきか>
予習・復習・記録・練習・実践
日常編・手術編・自己学習編に分けてご説明します。
日常編
効率よく習得するための、日常の心構え。
オーベンとうまく過ごす
ホウ・レン・ソウ
周囲とのコミュニケーションは大切。
オーベン(指導医)が「あなたがどこにいるか・何をしているか、わからない」という状況は避けましょう。
ホウレンソウはきちんとします。
オーベンの手助けをできるだけ
ご指導いただく立場です。何か頼まれたら、基本的に素直に受け入れ、すぐ行動します。
オーベンにとって「あなたが、いろいろ動いてくれるおかげで、助かる・働きやすい」と感じたら、こっちのもの。色々教えてくださいます。
ただし、自分のキャパオーバーのときは、断る勇気も必要。
指導医が助手を術者にしてくれる条件
・指導医の言うことに耳を傾ける
参考:脳神経外科速報vol.32 no.4 2022.7
・術前・術後に患者をよく診察する
・術前の治療戦略が十分できている
・術後管理をよく勉強している
オーベンのスキルを盗む
どんな治療戦略か
治療戦略、実際の方法を学びます。
脳血管内治療ならプランA、B、Cまで用意。なぜなら、血管の走行などでアプローチを変更せざるをえないケースがあるからです。
プランAがうまくいかなかったとき、プランB、Cに変更する。
治療戦略がわからなければ、直接聞くのもOK。慣れてきたら、自分なりに戦略を考えてみましょう。
合併症が起こったときの対応
例えば、手術中に血管を傷つけ出血したとき、どうリカバリーしたか。
合併症が起こったときの対応の詳細を記載します。
自分が術者になったときにも、専門医試験対策にも役立ちます。
手術編
分野は広く習得する
将来的にサブスペシャリティを決め、専門性を高めますが、初めは、どの分野も広く習得することが大事です。
専門医試験でも、色々な症例が求められますし、自分の興味ある分野を探すという意味でも、全体を学ぶことに意味があります。
特定の分野の手術にこだわらず、広く習得しましょう。
手術室に積極的に足を運ぶ
助手や外回りとしてできることを率先する
積極的に手術場に赴き、助手や外回りとしてできることを率先しましょう。
緊急手術があれば、呼んでもらうようにすると、術者になるための指導が受けられます。
機会をじっと待つのではなく、自ら行動することで、機会を呼び寄せるのです。
気づいたことがあればメモする
手術の準備・手順・操作など、気づいたことがあればメモをしましょう。
清潔になっていれば、手をおろしたあとにすぐにメモすれば、忘れずに済みます。
例えば、脳外科緊急手術のとき、オペ看護師に頼れず、自分が手術器具の介助をすることになったとします。
そんなとき、ベンシーツ(手術中脳を保護するシート)の置き方・並べ方を知っているだけで、術者が快適に手術をすることができ、うまく介助できたあなたが評価されます。
普段、手術室にただ立っているだけでなく、細かなことに注意を払い、ワザを盗むだけで、生かされるときがきます。
予習と復習
予習と復習をきっちりする
「予習と復習、どちらが大事か?」と上司に質問すると、5人中4人は予習と答えます。
「予習が全て。予習できていれば手術はおわったも同然」とおっしゃる上司も。
例えば、脳動静脈奇形の手術。動脈・静脈・ナイダス(動静脈をつなぐ部分)の全ての走行を把握して、どの順番で処理するかあらかじめ把握しておかないと手術ができません。
ですので、予習が大事なのは言うまでもありませんが、初めからうまく予習できないのも事実。
実際、誰もが手術書を参考に、手術に臨みますが、手順が違ったり、いまどこを進行中かわからなかったりします。
数をこなせば、把握できますので、初めのうちは、復習を大切にしましょう!
次回は手順通りできるように記録する
では、どのように復習するか。まずは、手術手順です。
手術書と違う点や、手順を忘れていた部分など、実際のビデオを見ながら手順をおさらいしましょう。
次に、術野。どの血管をどう処理したか、剥離の仕方などを復習します。
次に同じ手術をするときに、オペレコ(手術記録)を見直せば、再現できるくらいまで、つめておくと、効率がよいです。何度も繰り返すことで、身につきます。
予習でわからないことは聞いておく
初めての手術を予習して、わからないことがあれば、遠慮なくオーベンに聞きましょう。
わからないまま手術に臨んでも、理解できません。
たとえ助手であっても、術者になったつもりで、予習することも大事なポイントです。
オペレコ
記載方法
イラストは簡潔にわかりやすく。重要なポイントは文章を交えて記載し、強調します。
手術イラストの意義は、術者自身が手術内容を整理し理解を深めるとともに、その場にいない外科医が容易に手術内容を理解できることである。
参考:馬場元毅:手書き手術イラストの意義
実例をいくつかご提示:
日本消化器外科学会雑誌第53巻1号
脳神経外科速報vol.32 no.4 2022.7
同じオペなら、症例毎に書き込み追加も可
数をこなすまでは、一症例ごとを大切にし、きちんとオペレコを作成しましょう。
しかし、同じ手術のオペレコを毎回一から書くのは、大変ですよね。
そんなときは、コピーして症例毎に書き込みを追加してもよいでしょう。症例によって、注意点、結果、合併症に対する対処など異なることがあるはずです。
毎回、気づいた新たな事を、追加で記載するようにします。
カルテの手術所見を自分で書いてみよう
術者は、手術所見を必ず書きます。予習・復習に慣れてきたら、助手を担当しても、手術所見を書いてみましょう。
可能であれば、術者に訂正してもらうとベストです。
自己学習編
密かな訓練
何事も、その道を極めるには、時間をさいてトレーニングすることが必要です。
脳外科なら、練習用の顕微鏡下で、マイクロハサミ・ピンセットを用いてガーゼの網目を縫う。手羽先の血管を用いてバイパス術の練習をするなど。
空いた時間に、少しずつ取り組めるとよいでしょう。
オンライン動画の利用
今はオンラインの動画が充実しており、専門家のスキルを身近に学べます。好きなときに、何度も見られるのがメリット。
血管内治療なら、術者の手元にご注目。カテーテルの保持の仕方、トルカー(ワイヤーを動かすための手元のデバイス)を操作する手の動きなど確認します。
Oben -上級医師による手技映像配信-も利用してみてください。
不要な器材をもらって、自分で練習すれば、使い方のスキルは自分のものに。
記録はムダではない
書き溜めたオペレコは、決してムダではありません。むしろ、よりよい治療に結びつく結晶のようなもの。
私のオーベンでさえ、オペレコを毎回書いて記録し、事あるごとに見直しています。
自身の財産になるだけでなく、研究テーマの決定や学会発表にも利用可能。
ギモンに思ったことを書いておけば、症例数を重ねることで共通点・解決策がみえることもあります。
まとめ
外科スキルを身につける方法を、日常編・手術編・自己学習編に分けてご説明しました。
正攻法ですが、予習・復習・記録・練習・実践。その繰り返しが役立つときがきます。
皆さまの、ご活躍を祈念いたします。
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