今回は、急性期脳梗塞に関する事項です。
※例年のCEPテキスト、経皮経管的脳血栓回収用機器適正使用指針第5版、最近の論文の内容を、筆者がまとめ編集したものです。
順不同、ポイントのみをまとめています。詳しくは引用文献をご参照ください。
脳梗塞基本事項
脳虚血時の組織反応
CBF:Cerebral blood flow脳血流量(ml/100g/分)
J Jpn Coll Angiol 44: 217–223, 2004
脳虚血
ATP枯渇
→星細胞からグルタミン放出
→シナプス後膜から神経細胞内へNa+/Ca2+の流入
→NO産生
→神経細胞死
虚血コア
CBFが正常脳の30%未満
earlyCTsign
- 皮質・白質の境界消失
- シルビウス裂の狭小化、脳溝の狭小化・消失
- レンズ核の不明瞭化
- Hyperdense MCA sign
ASPECTs
ASPECTs: Alberta Stroke Program Early CT Score
早期CT虚血変化をスコア化、10点から減点
適切なCTwindow幅:80以下を推奨
Lancet 355:1670-1674, 2000
Am J Neuroradiol 22: 1534-1542, 2001
pc ASPECT
posterior circulation ASPECT
中脳・橋 2点
一側 小脳・視床・後頭葉 1点
合計10点
J Neurol 257: 767-773, 2010
脳梗塞の頭部CT
・低吸収域は6時間以内では認められないことが多い
・2-5日一様に低吸収
(浮腫によるmass effect大)
・1週間くらいから浮腫の消退が始まる
・2-3週で低吸収→等吸収に
Fogging effect(浮腫消退、毛細血管新生、点状出血、造影剤漏出)
・1ヵ月後均一に低吸収に
急性期脳梗塞治療まとめ
脳卒中治療ガイドライン2021
遺伝子組み換え組織型プラスミノゲン・アクチベータ(rt-PA、アルテプラーゼ)の静脈内投与(0.6mg/kg)は、発症から4.5時間以内に治療可能な虚血性脳血管障害で慎重に適応判断された患者に対して勧められる
(推奨度A)
患者が来院した後、少しでも早く(遅くとも1時間以内に)アルテプラーゼ静注療法を始めることが勧められる(推奨度A)
t-PA禁忌
脳卒中治療ガイドライン
rt-PA指針第3版改訂230926
※ダビガトラン服用患者における治療の適応
こちらもおさえておきましょう
APTT≦1.5倍andダビガトラン内服4時間以降
⇒ rt-PA→血栓回収療法
APTT>1.5倍orダビガトラン内服4時間以内
⇒ rt-PAスキップし血栓回収療法可
血栓回収療法が行えない
⇒ イダルシズマブ→ rt-PA
※アルツハイマー病に対する抗アミロイド抗体治療薬(レカネマブなど)の投与を受けてい
る場合に静注血栓溶解療法を行なったのちに脳出血を発症した報告がある。このような患
者に対する静注血栓溶解療法の適応はより慎重な検討が必要である【推奨グレード B、エ
ビデンスレベル低】
アルツハイマー病に対する抗アミロイド抗体治療薬(レカネマブなど)の治療を受
けているかどうか可能な限り情報を収集する。ただし治療の大幅な遅れに繋がるこ
とは避ける必要がある【B、低】
アミロイド関連画像異常 amyloid-related imaging abnormalities (ARIA)
with edema (ARIA-E) or with hemorrhage (ARIA-H)を伴うことがあり、静注血栓溶解
療法前には MRI(T2*強調画像、SWI や FLAIR 画像など)で本画像異常がないことを確
認する【推奨グレード A,エビデンスレベル高】
アルゴリズムはrt-PA指針第3版改訂230926 参照
※微小脳出血
CMBs:cerebral microbleedsの存在はrt-PA静駐禁忌とはならない
微小脳出血は、MRI-T2*にて5mm以下の点状低信号として描出される無症候微小出血
高血圧が原因の深部型(大脳基底核)と、アミロイドアンギオパチーや高血圧が原因の脳葉型(大脳皮質・皮質下)がある
主幹動脈閉塞による急性期脳梗塞の血管内治療適応
①前方循環系の主幹脳動脈(ICA または MCA M1 部)閉塞と診断され
②発症前の modified Rankin scale (mRS)スコアが 0 または 1
③頭部 CT または MRI 拡散強調画像でAlberta Stroke Program Early CT Score (ASPECTS)が 6 点以上
④National Institutes of Health Stroke Scale (NIHSS)スコアが 6 以上
⑤年齢 18 歳以上
すべてを満たす症例に対して、遺伝子組み換え組織プラスミノゲン・アクティベータ(rt-PA、アルテプラーゼ)静注療法を含む内科治療に追加して、発症 6 時間以内にステントリトリーバーまたは血栓吸引カテーテルを用いた血管内治療(機械的血栓回収療法)を開始することが勧められる【グレード A】
最終健常確認時刻から6 時間を超えた ICA または MCA M1 部の急性閉塞が原因と考えられる脳梗塞では、発症前の mRS スコアが 0 または 1 で、NIHSS スコアが 10 以上かつMRI 拡散強調画像でASPECTS が 7 点以上である症例に対して、最終健常確認時刻から16 時間以内に本療法を開始することが強く勧められる【グレード A】
また、頭部CT灌流画像または MRI 拡散強調画像における虚血コア体積と、神経症状あるいは灌流画像での灌流遅延領域にミスマッチがあると判断される症例に対し、最終健常確認時刻から24時間以内に本療法を開始することが勧められる【グレード B】
経皮経管的脳血栓回収用機器適正使用指針第5版より
<留意点>
rt-PA 静注療法の適応例に対してはそれを優先すること【グレード A】
治療開始および再開通までの時間が早いほど良好な転帰が期待できる。このため、患者が来院した後、少しでも早く血管内治療(機械的血栓回収療法)を行うことが勧められる【グ レード A】
本療法における第一選択の治療機器として、ステントリトリーバーと血栓吸引カテーテル は同等の有効性が証明されており、いずれを用いても良い【グレード A】
使用される機器
ステントリトリーバー: Solitaire, Trevo, Tron FX, EmboTrap, Envi-SR
血栓吸引カテーテル:Penumbra, Sofia, AXS Catalyst, AXS Vecta, REACT, EmboVac, Salva, Esperance
上記基準を満たした症例に原則として発症8時間以内の急性期脳梗塞に使用可能
※TrevoとSolitaireは発症から24時間以内の急性期脳梗塞に使用可能
(2019年適応拡大)
※Envi-SR も国内臨床試験の結果を基に2023 年に承認
おさえておくべき論文
急性期血栓回収療法の有効性が示されたRCT
MR CLEAN
N Engl J Med 372: 11-20, 2015
ESCAPE
N Engl J Med 372: 1019-30, 2015
EXTEND-IA
N Engl J Med 372: 1009-18, 2015
SWIFT PRIME
N Engl J Med 372: 2285-95, 2015
REVASCAT
N Engl J Med 372: 2296-306, 2015
これら5つのRCTの統合:HERMES Collaboration
Lancet 387: 1723-31, 2016
mRS 0-1は、内科的治療群12.9%、血管内治療群は26.9%
⇒前方循環系主幹動脈閉塞例に対する血管内治療の高い有用性
THRACE
Lancet Neurol 15: 1138-47, 2016
PISTE
J Neurol Neurosurg Psychiatry 88: 38-44, 2017
ここでは詳細を省きますが、それぞれの対象血管、治療内容、治療開始時間、画像評価項目などの要点をおさえましょう。
DEFUSE3
N Engl J Med 378: 708-18, 2018
DAWN
N Engl J Med 378: 11-21, 2018
吸引カテーテルの論文
ASTER
(Contact Aspiration vs Stent Retriever for Successful Revascularization)
発症6時間以内の前方循環主幹動脈閉塞症
contact aspiration techniqueとstent retriever techniqueの比較試験
TICI2b以上の再開通率は、contact aspiration群85.4%、stent retriever群83.1%
90日後mRS0-2は、前者45.3%、後者50.0%
有意差なし
JAMA 318: 443-52, 2017
COMPASS
発症6時間以内の前方循環主幹動脈閉塞症
ADAPT(a direct aspiration first pass technique)とstent retriever techniqueの比較試験
TICI 2b以上の再開通率はADAPT群91.7%、stent retriever群89%
90日後mRS0-2は、ADAPT群52%、stent retriever群49%
有意差なく吸引カテーテルの非劣性が証明
Lancet 393: 98-1008, 2019
M2閉塞の検討
HERMESによる7試験のメタ解析
M2閉塞に対する血管内治療の有効性についての検討
TICI2b以上の再開通率は、血管内治療群 59.2%
90日後mRS 0-2は血管内治療群58.2%、内科治療群39.7%
血管内治療群で転帰が良好であった。
(有意差なし)
近位M2、優位側M2、単一M2 が有効であった。(有意)
J Neurointerv Surg 11: 1065-69, 2019
RESCUE Japan Registry2事後解析
M2閉塞に対する血管内治療と内科治療の比較
90日後mRS 0-2 OR 2.09
血管内治療群で転帰良好(有意)
J Neurointerv Surg 11: 964-69, 2019
広範囲な虚血コアを有する例
RESCUE Japan Registry2
ICA/M1閉塞でASPECTs≦5において、血管内治療の90日後mRS≦2が19.8%で内科的治療4.2%と比較し有意に良好。
Stroke 50: 901-908, 2019
HERMESによる7 試験のメタ解析
ASPECTS 3~5 の症例に対する血栓回収療法は症候性頭蓋内出血を増加させるが、90 日後mRS 改善の調整共通ORは2.00 と有意な転帰改善効果を示した。
Lancet Neurol 17: 895-904, 2018
RESCUE-Japan LIMIT
日本RCT
発症6時間以内の前方循環主幹動脈閉塞症
発症時刻不明でFLAIRに早期虚血変化がない場合24時間
ASPECTS 3~5 の症例
血管内治療と内科的治療の比較
90日mRS0-3は、血管内治療群31.0%、内科的治療群12.7%
(相対リスク2.43、有意差あり)
NIHSS8点以上の改善は、血管内治療群31.0%、内科的治療群8.8%
(相対リスク3.51、有意差あり)
48時間以内の頭蓋内出血は血管内治療群58.0%、内科的治療群 31.4%(有意)
症候性頭蓋内出血と死亡率は有意差なし
N Engl J Med 386: 1303-1313, 2022
脳底動脈閉塞症の検討
BEST
中国
発症8時間以内の椎骨脳底動脈閉塞症
内科的治療と血管内治療の比較
一次アウトカムは90日後mRS0-3
内科治療群の22%に血管内治療が施行され(治療のクロスオーバー)、有効性を示せず早期終了
Lancet Neurol 19: 115-22, 2020
BASICS
欧米
発症6時間以内の脳底動脈閉塞症
血管内治療と内科的治療の比較(1:1)
アルテプラーゼ静注の割合が多かった。
90日後mRS0-3は、血管内治療群44.2%、内科的治療群37.7%
NIHSS≧10で血管内治療が有効な傾向
N Engl J Med 384: 1910-20.2021
⇒血管内治療の有効性は確立されていない。
BASILAR
中国
発症24時間以内の脳底動脈閉塞症
血管内治療+内科的治療と内科的治療の比較(前向き研究)
90日後mRS0-3は、血管内治療群の方が有意に良好であった。(odds4.7)
90日死亡率も低かった。
しかし症候性頭蓋内出血は7%と多かった。
JAMA Neurol.77(5): 561-573.2020
<血管内治療を支持するエビデンス>
ATTENTION
中国
発症12時間以内の脳底動脈閉塞症
血管内治療と内科的治療の比較(2:1)
90日後mRS0-3は、血管内治療群46%、内科的治療群23%で有意に良好であった。
症候性頭蓋内出血は血管内治療群のみで認めた。(6%)
90日死亡率は血管内治療群37%、内科的治療群55%
血管内治療で手技による合併症は14%、1名死亡
N Engl J Med 387: 1361-72.2022
BAOCHE
中国
発症6-24時間以内の脳底動脈閉塞症
血管内治療+内科的治療と内科的治療の比較(1:1)
90日後mRS0-3は、血管内治療群46%、内科的治療群24%で有意に良好であった。
血管内治療群で症候性頭蓋内出血は6%に認め、有意に多かった。
90日死亡率は血管内治療群31%、内科的治療群42%
血管内治療で手技による合併症は11%
N Engl J Med 387: 1373-84.2022
rt-PA適応症例に対する血栓回収療法単独治療の検討
SKIP
日本
発症4.5時間以内の前方循環主幹動脈閉塞症
90日後のmRS0-2:血管内治療単独群59.4%、tPA併用群57.3%
IVTskipの非劣性は示されなかった
JAMA 325: 244-53, 2021
DIRECT-MT
中国
発症4.5時間以内の前方循環主幹動脈閉塞症
90日後のmRS0-2:血管内治療単独群36.4%、tPA併用群36.8%
IVTskipの非劣性が示された
N Engl J Med 382: 1981-93, 2020
DEVT (direct EVT)
中国
発症4.5時間以内の前方循環主幹動脈閉塞症
90日後のmRS0-2:血管内治療単独群54.3%、tPA併用群44.6%
IVTskipの非劣性が示された
JAMA 325: 234-43, 2021
MR-CLEAN-NO IV
欧州
発症4.5時間以内の前方循環主幹動脈閉塞症
90日目mRS:
血管内治療単独群3、tPA併用群2
優越性、非劣性とも示されなかった
N Eng J Med 385: 1833-44, 2021
※各々頭蓋内出血・死亡率省略、有意差なし
※SWIFT-DIRECT、DIRECT-SAFEでは、血管内治療単独のtPA静注・血管内治療併用に対する非劣性は証明されなかった。(学会報告)
その他重要事項
FVH:
FLAIR vessel hyperintensity sign
主幹動脈や末梢血管の閉塞もとらえられる
SVS:
T2*のsusceptibility vessel sign
主幹動脈血栓の検出
SVS陽性:
心原性脳梗塞
赤血球を反映
t-PA単独で再開通を得られにくい
血栓回収による再開通率は高い
転帰改善を期待できる
逆にSVS陰性の白色血栓が疑われたら、Stent retriever単独では再開通困難
Stroke 47: 3035-7, 2016
J Stroke 20: 268-76, 2018
担癌患者の主幹動脈閉塞症に対する血栓回収術
Stent retriever単独よりもAspiration単独、もしくは併用して用いることで有効再開通率が有意に高く、治療時間が短く、first pass effect が多くなる。
J Neurointerv Surg 13: 318-23, 2021
外減圧
RCT:DECIMAL, DESTINY, HAMLET
中大脳動脈灌流域を含む一側大脳半球梗塞において
①年齢18-60歳
②NIHSS 15を超える
③NIHSSの1aが1以上
④MCA梗塞≧50% or DWI>145cm3
⑤発症48時間以内
に外減圧術が勧められる(推奨度A)
脳卒中治療ガイドライン2021
FPE:
Fast pass effect
1passで再開通する
再開通までの時間が極めて短く、予後良好
FPEとなる因子:
・バルーン付きガイドカテーテルの使用
・内頸動脈閉塞以外
Stroke 49: 660-666, 2018
TrueFPE
1passで完全再開通(mTICI3)
血栓回収療法の予後良好因子
mTICI3: modified Thrombolysis in Cerebral Infarction
Stroke 50: 2140-46, 2019
血栓回収後24時間で再閉塞する予測因子
1スタチン内服
2内頸動脈閉塞
3pass回数
4手技中の一過性閉塞
5動脈硬化
Stroke 50: 2960-63, 2019
Futile recanalization
主幹動脈閉塞症による急性期脳梗塞に対する血栓回収療法を行い、再開通したものの予後不良となること
関連因子:
・高齢
・女性
・NIHSS高い
・ASPECTs低い
・高血圧
・糖尿病
・心房細動
・入院時収縮期血圧
・血糖値
・内頸動脈閉塞
・治療前iv-tPA
・onset-to-puncture time
・puncture-to-recanalization time
・治療後症候性頭蓋内出血
NIHSS:National Institutes of Health Stroke Scale
ASPECTs: Alberta Stroke Program Early CT Score
J Neurointervent Surg 14: 881-885. 2022